プロローグ 街の喧噪から少し離れたその場所に二人の男が横たわっている。その傍らには銃を持った男が独り、佇んでいた。 倒れている二人のうち一人はまだ若く、少年のような顔立ちをしていたが、すでに生気はない。もう一人は、50代位でまだ息があった。 二人を見下ろしながら、男は銃を持ったまま煙草に火を付けた。 「なぜ…。」 息も絶え絶えに問いかける相手に対し、男はフゥーッと煙を吐き出し、微笑みを浮かべた。 「知りすぎたんですよ、あなた方は。この世には知らなくていい事がある。それ以上嗅ぎ回られない為には、こうするしかなかったんですよ。」 男は少しつまらなそうにそう答えた。 「さあもういいでしょう。これ以上は時間の無駄です。そろそろ眠ってもらいましょうか…、永遠にね。」 そういうと男は再び彼に銃口を向け、引き金を引いた・・・。 しかしその音は、すぐそばを走る列車の音にかき消され、この異常事態に気づく者は居なかった。 男は銃を納めながら再び煙を吐き出すと、向きを変え街の雑踏へと姿を消した。 致命傷を受けた男は薄れゆく意識の中で、家に残してきたまだ幼さの残る少年の名前を呼ぼうとしたが、その声が実際に発せられることはなかった。 そして同じ頃、まだ帰らぬ父と兄を待っていた少年は、静かに降り始めた雨を眺めていた。 「今日は早く帰るって言ったのに・・・。」 そういうと少年は小さく溜息をついた。いつもの事だと自分に言い聞かせていたが、言いしれぬ不安を感じ始めていた。その後自分に待ち受ける運命も知らずに・・・。 |