〜第三幕〜



舞台:繁華街から少し外れた裏通りのラーメン屋台
時刻:丑三つ時

「間違いだったのかな…」
安岡がうなだれる。
「そうかもね〜、朝まで彼女帰ってこなかったりしてぇ〜」
村上ののんきな声が響く。
「でも、俺は彼女を信じて待っててあげたいし…」
安岡の声はだんだん小さくなる。
「君が彼女を信じても信じてなくても、裏切るのは彼女の方だしね」
冷たく北山が言い放つ。安岡はその言葉に打ちのめされ、胸をつかんで崩れ落ちる。
「待っててやれよ。惚れてるんだろう。惚れた女を信じて待っててやるなんて、そんなかっこ悪いこと男にしか出来ないんだから、待っててやれよ!」
酒井の熱い口調が沈黙を破る。みんなはその熱い口調に驚き、酒井を凝視する。しかし、酒井はそれを気にせず、遠くを眺めながら言葉を続ける。
「信じて待つか…。帰ってくるのを待っててやれる女が居るなんて、ふっ、羨ましいよ…」
酒井は冷めた笑みを浮かべ、想い出の世界に一人浸る。四人はそんな酒井から少し離れた所で集まり、小声で相談する。
「お前が聞けよ」
村上が北山を指差す。
「昔、女でなんかあったんだろうね」
安岡が言う。
「僕、嫌ですよ」
北山が首を振る。
「絶対なんかあったって顔だよね」
黒沢が酒井を指差す。
「でも、触れられたくないかも」
安岡が首を傾げる。
「そんなこと無いって、あの背中見てみろ。絶対聞いて欲しがってるんだって」
村上が言う。四人は額を寄せる。目と目を見合わせてジャンケンが始まる。黒沢が負ける。
「えーっ、俺が聞くの?」と言う顔で自分を指差す。三人は頷き、黒沢を酒井の方に押し出す。
「酒井さんでしたよね?」
黒沢がかしこまった口調で酒井に話しかける。酒井はまだ自分の世界に浸っている。黒沢が不安気に降り返る。三人はそれぞれに「聞いて来い!」のアクションを黒沢に送る。
「待ってるんですか?」
黒沢の言葉に、他の四人が大きくこける。
「なん〜て、聞き方するんだよ、全く」
村上が黒沢の頭を軽く叩く。
「じゃぁ、なんて聞くの?」
黒沢がふてくされて言う。
「もっとあるだろうが、ほら、ほら、なっ安岡」
村上が安岡の方に顔を向ける。
「えっ、あ・あの、昔、恋愛でなんかあったんですかとか…、ねっ」
北山に相槌を求める。
「そう、えーっと、昔の恋人を今でも思ってるとか…」
ぎこちない口調で北山が言う。
「そうそう、そんで、その昔の恋人のことを今でも待ってるんですか?だよなっ」
村上の言葉にみんなは頷き、探るような目で酒井を見る。酒井はしょうがないかという顔で立ち上がり、語り始める。
「昔、本気で惚れた女が突然居なくなっちまったんだ、ごめんなさいの書置き残して…。勝手に居なくなったあいつのことを今でも待っているのか待っていないのか、自分でもわかんないんだ…。でも、こうして毎日同じ場所で同じ時間に屋台を広げてるのは、やっぱり、あいつのことを待っているんだろうな…」
照明が徐々に落ち、酒井のみに弱めのライトが注がれる。
“讃歌”が流れる。


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