〜第一幕〜



舞台:繁華街から少し外れた裏通りのラーメン屋台
時刻:丑三つ時
 
 酒井雄二のラーメン屋台に黒いスーツ姿の男と学生のような若い男がやってくる。
「ラーメン二つね」
スーツ姿の男が2本の指を立てる。
酒井がラーメンを作っている間に、若い男はふてくされた口調でスーツ姿の男に愚痴をこぼしている。
「俺を迎えに来させて、なんで他の客と別の店に飲みに行くんですか?これじゃまるで俺がヒモみたいじゃないですか、そう思いません?黒沢さん」
「まぁ、まぁ、安岡君、バーテンの俺から言わせてもらうとね、彼女もホステスだから断れない時もあるのよ。」
「へい、ラーメン二丁お待ちぃ」
酒井は出来あがったラーメンを差し出す。
二人はラーメンをすする。そこに、大きな黒ブチメガネの男が入ってくる。
「チャーシュー抜きで、ニンニク多めで、麺硬めで、メンマ多めで」
「北山君いつものやつだね。今日は代行の仕事は?」
常連客北山に酒井は話しかける。
「ドタキャンが入ったんだ」
北山はそう言って安岡の隣に座るやいなや太い本を広げぶつぶつ言い始める。安岡の愚痴はまだ続いている。
「俺だってね、真面目に仕事したいんですよ。でも、大卒一ヶ月分の給料を彼女のあいつが一週間で稼ぐんじゃ、普通の仕事選べませんよ。」
「うちの店の中でも彼女は人気があるからね」
黒沢が冷めた口調で言う。
「えっ、あいつ客にもてるんですか?」
安岡の声は裏返る。
「あの〜、うるさいんで静かにしてもらえませんか」
北山の低く事務的な声が響く。
「うるさいってなんだよぉ、こんな所で本読んでるお前の方が鬱陶しいんだよ!」
「僕は、事実を言っただけですよ。」
睨み合う安岡と北山。
「まぁ、まぁ安岡君も、北山君っだけ?こんなちっぽけな屋台でケンカしなくても」
二人を止めようとした黒沢のこの言葉が酒井の怒りに火を点ける。
「悪かったな、どうせ、うちはちっぽけで汚ねぇラーメン屋だよ!」
〜ジャラジャーン〜そこへギターの音と共に背の高い男が登場。
「〜♪あの人だけへの愛の歌〜あなたに代わって奏でましょう〜私は愛の吟遊詩人〜村上てつや♪〜」
「あんた、他でやってくんない?」
酒井の言葉に他の三人は一斉に頷く。
「みなさ〜ん、眉間に皺なんか作ってるじゃないですか、この明日のスター村上てつやの歌を聴けばきっと幸せになりますよ、じゃぁ聞いてください。」
「やめろ!」
四人は同時に言う。
「今なら一曲消費税込み525円なのに…」
村上はすねた口調でギターから手を離す。気まずい雰囲気が流れ、舞台の照明が落ちる。
“イントロ‘98”(暗闇のまま)が流れる。照明が一気に点く。
“或る晴れた日に”が流れる。


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