〜黒沢薫 編〜



 高校生の村上てつやは最高のコーラスグループ結成を心に誓い、メンバー探しの旅をスタートさせた。しかし、彼の耳とハートを満足させる人間にはなかなか出会えなかった。
 とある日の学級会の議題は学園祭での模擬店の段取りであったので、村上は昼寝タイムに入っていた。その村上の眠りを破る声がクラス中に響き渡った。
「小麦粉に混ぜる、お出汁はやっぱりけずったかつおぶしから取ろうよ!」
 同じクラスの黒沢薫であった。彼は、模擬店でやるたこ焼きの作り方について熱く語り始めたのだ。その、艶のある声に村上の魂は揺さぶられた。
「こいつが欲しい」村上は思った。
 学園祭では黒沢の頑張りで、たこ焼き屋は脅威の売上を挙げていた。その学園祭が終わりに近づいたとき、村上はたこ焼きを焼いているエプロン姿の黒沢に近づき、焼けたばかりのたこ焼きをいきなりむさぼり食べ始めた。
「これ、めっちゃうめぇな。そんで、黒沢、歌好きだろ?」
頷く黒沢に、村上はこう声をかけた。
「俺が、もっと好きにさせてやるから、俺についてこい」
 黒沢薫はこうしてメンバーの一人となった。別れ際、村上は歯に青海苔を光らせながら黒沢に言った。
「俺達仲間なんだから、今度、料理作ったら食わしてくれよな」


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